あまいくりから

午後五時、高校からの帰路で、大倶利伽羅は迷っていた。
駅から家に至るまでに並ぶコンビニや菓子屋に視線を送れば、ガラスの向こうに見えるのだ。
明るい桃や滑らかな茶、あるいは豪華な金の包装紙に包まれたチョコレートが。
また、それ自体が美麗な色を纏ったケーキが。

(欲しいとは、言われていない。言われていない、が……)

大倶利伽羅は、今朝の光忠の言葉を思い出した。


***


「僕は誰からも貰わないよ」

明朝、燭台切光忠が身支度を整えながら言った。
突然振られた話に、食事をしていた大倶利伽羅は首を傾げる。
リビングでは菓子屋のCMが流れていて、それで今日がバレンタインであったことを思い出した。

「貰わないといっても、ファンから送られてくるんじゃないのか?」
「まあね、でも……送られてきたものは目にするしお礼も言うけど、局の方針で頂きはしないんだ」
「じゃあ、食べないのか」
「色々物騒なこともあるからね」
「……そうか」

アナウンサーというのは、テレビ局の顔だけあって一般の知名度も高い。
昔は黒子のようだった存在も、今やアイドルや俳優とほとんど同じ人気を博していた。
光忠も例外ではなく、恋愛の制約が多い。
裏返せばそれは、光忠に恋心を抱く視聴者の多さを示している。
彼の彼女になりたい――そう思わせるために、制約があるのだ。
そして、恋は人をおかしくする。
大倶利伽羅は噂程度にしか聞かないが、見目の良い男は、女性から血や髪の毛をいれたプレゼントを贈られることも、ままあるらしい。
そんな危険のあるチョコレートを看板アナウンサーに食べさせることなど、テレビ局には到底できない話だろう。

「……付き合いもあるだろ」
「共演者からは義理チョコだけ頂くつもりだよ。本命とわかったものは全てお断りしようと思う」
「ふうん……で、どうしてそれを、俺にあらかじめ宣言したんだ」
「簡単だよ、君が僕の恋人だから」

コートを着て支度を整えた光忠は、大倶利伽羅の頬をするりと撫でて腰をかがめると、唇を重ねた。
大倶利伽羅がふいに訪れた熱に固まっていると、唇を割って光忠の舌が入り込む。
ちゅ、と水音がした。
舌が好き放題暴れ、大倶利伽羅はとろりと目元を緩ませる。

「……みつただ、時間」

残った理性で、大倶利伽羅は光忠の身体を押し返す。
彼の朝は非常に早い。時計が五時前を示せば、もう出社しなければいかなかった。

「そうだね、残念だけど出るよ。じゃあ……今日もカッコ良く行ってきます」


***


大倶利伽羅はキスの味まで思い出して、頬を赤らめた。
チョコレートが欲しいとは言われていない。
しかし、君以外からはもらわない、と言われたのは確かだ。

(買うべき……なのか?)

ちらちらと店先を見ながらも、大倶利伽羅は大通りの終わりまで歩いてきてしまった。
曲がれば、後数分で家だ。
しかし、そこでつい足が進まなくなってしまう。

「……くそ」

大倶利伽羅はつぶやくと、踵を返して来た道を戻りだした。
同じ時刻に電車を降りた幾人かが不思議そうにこちらを見ている気がして、赤いマフラーに顔を埋める。

「なんで俺がこんなことを……」

ぶつくさ言いながら、大倶利伽羅は駅前のケーキ屋へと向かった。
折角買うのであれば、ただコンビニに並んでいるものよりケーキ屋のものの方が良いだろう。
しかし、ケーキ屋の中に入って一瞬で、大倶利伽羅は足を踏み入れたことを後悔した。
駆け込みで誰かに贈り物を送ろうとしているのか、ケースの前で盛り上がっている女子高生達。
これから待ち合わせだと言わんばかりにめかし込んだ風貌のOL。
旦那にでも買うのだろう、年配の婦人。
女、女、女――元より女性客ひしめく店内が、更に女性で満たされていたのである。
中には男性客もいたが、多くは女性の付き添いといった様子で暇そうにしている。
ひとりで来た大倶利伽羅はますます顔を赤くした。
しかし、一度はいってしまったのだから、と列に並ぶ。
前の客が振り返り、意外そうに眼を開いた。
大倶利伽羅は知っている、外見から、こういう場所に来る人間には思われないことを。

(俺は別に、バレンタインだからチョコを買いに来たわけじゃない。ケーキ屋にただケーキを買いに来ただけの客だ。……たのむから、そうとってくれ)

十数分後、恥ずかしい思いをしながら、大倶利伽羅はようやくレジにたどり着いた。
ショーケースに並んだチョコレートやケーキを見つめる。
大倶利伽羅にはどれが良いのかさっぱりわからない。
ただ、ハートのものを指定する勇気はないしその気もなかった。
悩んでいると、ひとりの店員が近寄ってくる。

「どれになさいますかー?おすすめは、こちらのハートのショコラです!やっぱりハートって特別ですから!」
「は、はーとのしょこら……」

オウム返しをしてしまった。気づいたときには遅く、彼女はにっこりと笑って、

「こちらでよろしいですか?」

と言っていた。

「……はい、それで」

別のものにしてほしい、と大倶利伽羅が言えるわけもない。
頷けば、にこやかに女性がケーキを取り出した。

「名入れもできますが、どうされますか?」

あったほうが喜ぶだろう。
一瞬でそう考えて、大倶利伽羅は小さく光忠の名前を出していた。


***


時計が進むのが速い。
帰ってくるな、いや、くるなら早く帰ってこい。
相反する二つの気持ちの間で大倶利伽羅は揺れていた。
光忠に教わったNHK以外のチャンネル(大倶利伽羅の育ての親はNHKを推奨していて、彼はそれを忠実に守っていた)を見ていると、珍しくバラエティの司会として光忠が出ている。
再放送らしいから、人気だったのだろう。
あらゆる知識を動員しながら低く甘い声で喋る光忠に、大倶利伽羅はぼうっと見とれてしまう。
そんな自分に気づいて、顔を片手で覆った。

(……くそ、かっこいいよ、あんた)

そんな風に過ごして暫くすると、玄関から扉を開く音が聞こえてきた。心臓が跳ねる。
この時間ならば夜は食べたのだろうが、冷蔵庫にしまったケーキについて、どう切り出せばよいのだろうか。

「ただいま、大倶利伽羅」

かちゃり、とリビングの扉を開いて、光忠が部屋に入ってくる。
光忠はコートを脱いで、それをハンガーにかけた。スーツのジャケットもだ。
きち、と腹まで上げたところにあるズボンが光忠の腰を絞り、均整のとれた体躯を明らかにしていた。

(いい身体してる、俺より……むかつく)

極道の家に育てられただけあって、大倶利伽羅は体格がよかったり筋肉がついていたりする男たちを数多く見てきた。
しかし光忠のような、すらりとしていながら適度に筋肉のついた体は、他に見たことがない。
部屋に入ってきたときの彼の汗の匂いも相まってか、大倶利伽羅は自分の中でむらむらとした性欲が生まれるのを感じていた。

「義理チョコを持って帰ってきたんだけど、君も食べるかい?」

ディンプルの綺麗に入ったタイをゆるめながら、光忠は机の上に紙袋を置いた。
そして、大倶利伽羅が座るソファの向かい側の絨毯に胡坐をかく。

「……これが、義理?」

中に入っていたのは、大倶利伽羅でも知っているような有名なチョコレートブランドのそれだった。
大倶利伽羅は豪華な包装をとき、一つ食べてみる。
高い味がした。
自分が選んだケーキは高校生でも買える安さだ。

「局の女子アナからなんだけど、体裁上へたなチョコレートで済ますわけにはいかないだろう?大丈夫、みんなに同じものを配っていたから」
「光忠は、これをもらって嬉しかったのか」
「嬉しいとか、そういう感情は特にないかな。お返ししなきゃいけないから、それを考えるのが少し面倒なくらいだよ。……あ、でもそれは可愛いね?」

光忠が、大倶利伽羅の開けた箱のチョコレートに手を伸ばす。
ハートだ。

(ハート……)

ケーキ屋の店員の言葉がよみがえる。
『やっぱりハートって特別ですから!』
単なる宣伝文句だと思いつつも、大倶利伽羅は光忠の指先がハートに触れる前にその手を掴んだ。

「大倶利伽羅?」
「……それは食べるな」
「え?」
「義理というから、もっと……普通のチョコレートを想像してた。あんたが、局でそんなの貰ってくるはずもないのに」

大倶利伽羅が中高で見てきた義理チョコレートといえば、ブラックサンダーやチロルチョコなど低価格なものだったし、かつ貰う方の男子の期待とは裏腹に、女子は非常にそっけない態度だった。

「もしかして、ハートだから駄目なのかい?」
「ハートは特別らしいから」
「そんなこと、誰が君に……」

大倶利伽羅は立ち上がってキッチンへ向かった。
冷蔵庫を開き白い箱を取り出す。
机にそれを置いて、少し乱暴な手つきで箱を開けた。

「えっ……!」
「あっ……?」

二人が驚きの声を上げる。
光忠のほうは、まさか大倶利伽羅がこれを自分にむけて用意していたのか、という驚きだ。
一方、大倶利伽羅の方は――。

「なんで……俺は確かに」

ハートのケーキの上に乗ったチョコレートプレートに、『みつ』と書いてある。
それに対しての驚きだった。

「聞き間違えられちゃったんだろうね」
「俺の声が……小さかったからか」
「それもあるかもしれないけど、きっと女の子に送ると思われたんだよ。『みつ』なら女の子の名前だしね」

なんだか脱力してしまう。
折角光忠に喜んでもらえると思って勇気を出したのに。
しかし光忠は、心底嬉しそうな顔でケーキの台座に触れた。

「……光忠?」
「いや、大倶利伽羅がケーキを買う時の、その姿が思い浮かぶなあと思ってね」
「……そんなの想像しても何も面白くないだろ」
「このマフラーに、顔を埋めて喋ったんだろう?」

大倶利伽羅首の赤いマフラーを、光忠が指先で引っ張った。

「あ……巻きっぱなし」
「今気づいたんだね。僕が帰ってくるまで、取るのも忘れて、そわそわしてた訳だ」

大倶利伽羅の手に光忠が手を重ねた。
一部分だけ露出した甲に浮き出た骨を辿るように、皮手袋の指先が動く。
光忠が、テレビでは決して見せない色気ある視線を大倶利伽羅に送った。
送られた大倶利伽羅は、先ほどからの性欲と相まって、ぞくぞくと背筋を震わせる。

「……っま、て。ケーキが、先だ」
「ああ、そうだったね。先に君の買ってきてくれたこれを食べないとね」

光忠は大倶利伽羅から離れ、投降する犯人のように両手を上げた。


***


光忠が食べるのを見ながら、大倶利伽羅は益々性欲が高まっていくのを感じていた。
ケーキが先と言っておきながらそんなことを思う自分が恥ずかしい。
けれど、光忠の赤い舌に自分のそれを絡ませたいという思いは引いて行かない。
大倶利伽羅は食べられたいのだ、目の前の年上の男に。

「そんな目で見ないでほしいよ、大倶利伽羅」
「だ、って」
「ああもう、君はいつも僕をカッコ悪くしてくれるよね」
「え……」

光忠はフォークを使って丁寧にケーキを食べていたが、それを机に乱暴に投げた。
そのまま片方の手袋を外し、露出した薄い肌色の指先で残りを掴む。
従来の彼ではありえない大口を開けて、光忠はそこにケーキを放り込んだ。
大倶利伽羅は、それをあっけにとられて見つめる。
ケーキのすべてが光忠の中へ消える。彼の咀嚼が終わり、喉が上下した。

「甘いものを食べたのに、まだ甘いものが食べたりないよ」

光忠が絨毯から腰を上げた。
様子を見つめる大倶利伽羅の後頭部に、光忠の革手袋が触れる。
後ろ首に手を滑らされ、大倶利伽羅はあっという間に彼のほうへ引き寄せられた。

「甘いものとは君のことだよ、倶利伽羅」

光忠に唇を押し付けられる。
ぺろりと唇を舐められて、大倶利伽羅も思わず立ち上がろうとして――足を机にぶつけた。
がた、と動いた机の上で、義理のチョコレートがひっくり返り、散らばる。
それを気にした大倶利伽羅とは対照に、光忠は一瞥すらもそれにくれなかった。

「光忠、チョコレートが……!」
「知らないね」

光忠は机に膝を乗せて、大倶利伽羅側へと身を乗り出す。
大倶利伽羅は思わずのけぞってバランスを崩した。

「う、わ……」
「……っ」

光忠の背に腕を回していた。彼ごとソファに倒れ込む。

「……悪い、巻き込んだ」
「いや、巻き込まれたかったから構わないよ」

綺麗な顔で、光忠は大倶利伽羅に微笑んだ。
至近距離でその顔を見ていると、胸の奥が苦しくなる。
それが愛おしさだと気付くのに、ずいぶんかかってしまった。

「あんたは、いつも狡い」

大倶利伽羅は光忠を押しのけ学生服を脱いだ。たまには鼻を明かしてやりたい。
そう思って光忠に挑む様な視線を向ける。
唇を、大倶利伽羅のほうから吸った。

「……!」

光忠が目を見開く。
鶴丸の言葉を借りれば、『少しは驚かせること』ができただろうか。
大倶利伽羅がそう考えた瞬間、光忠の唇がゆがんだ。

「これだけかな?」
「……なっ、違う……今からだ!」

張り合うように唇を割って舌を差し込んでやると、ケーキの甘さと光忠の滑らかな舌の味がした。
いつも彼にされるように舌を動かし、絡める。
大倶利伽羅は、はふ、と息をついた。

「……どうだ?」
「上手になったよ、僕を煽るくらいにはね」

光忠は大倶利伽羅をソファに押し付けた。少しクッションがあり、大倶利伽羅の体が跳ねる。
大倶利伽羅がそれに気を取られていると、こつりと軽く額がぶつけられた。
唇を舐められる。下唇を舌先で押され口を開けば、すぐに中に光忠のそれが入ってきた。
舌の側面から裏側までをねぶられると、大倶利伽羅の下腹部にはじわじわと熱がたまっていく。
キスをしかけた時から緩く勃起していたものが、更に強く芯を持った。
大倶利伽羅は、光忠のキスを受けながら自身の学生服のベルトに手をかける。
しかし、光忠の口づけに翻弄されて簡単に外せない。

「僕が脱がせてあげるよ」

光忠の革手袋に包まれた長い指が大倶利伽羅のベルトに伸びる。
カチ、と金属がこすれる音がしたのち、それが引き抜かれる。

「尻を上げて、大倶利伽羅」

素直にそうすると、ずるりとズボンが脱がされて絨毯に落ちた。
灰色のボクサーパンツ、大倶利伽羅のペニスの先端が収まっている場所に、既に染みができている。
こんな日に限って色の変化のわかりやすい下着を履いていたことを、大倶利伽羅は後悔した。

「もう濡れてるんだね、流石……若いだけあるね」
「……うるさい。あんたとそんなに変わらないだろ」
「何言ってるんだい。世間的にはぎりぎり許されるくらいの年齢差だよ。もう少し君が大人になれば、年齢差もそれほど気にならなくなるだろうけど……君はほら、まだ未成年だしね。更に悪いことに、十八を超えているとはいえ、君は高校生だろう?」

そんなことを言いながら、光忠は大倶利伽羅のシャツのボタンをゆっくりとはずした。
左右に開くと、うすい腹筋と臍があらわになる。
下着から陰毛が少しはみ出ていて、それをみた光忠は喉を上下させた。
うすい腹筋に、光忠が手を滑らせる。
上質の革が肌の上を動く感覚に、大倶利伽羅は喉をむき出しにしてのけ反った。

「そうだ。良い事を考えたよ」

光忠は一旦ソファから降り、大倶利伽羅の脚を左右に広げ、その間に身体をねじ込んだ。
膝立ちになって大倶利伽羅を見上げる。
大倶利伽羅は見上げてくる光忠の口角がくっと上がるのを見た。

「お前、……まさか」
「そのまさかかな」

光忠が、首を伸ばして大倶利伽羅のボクサーパンツに顔を近づける。

「っは、ああ、光忠……っ」

性器の近くで熱い息を吐かれ、下着越しだというのに強く刺激を感じてしまう。
大倶利伽羅は光忠の頭に手をやった。
さらりとした、少し特徴的に跳ねた髪と頭を、ともに掴む。

「……うん?」

すり、と鼻先でペニスを刺激されて、大倶利伽羅は体を波打たせる。
口を開け、更に近づこうとする男の口元に手を出した。

「だめだ、汚れるだろ」
「もう既に汚れてるけど?」

つん、と染みのできた場所を唇を尖らせ、つつかれる。

「大丈夫だよ、恥ずかしがらなくったって僕が洗ってあげるから」

光忠が口を開け、下着の上から唇で大倶利伽羅のそれを食んだ。
じゅ、と先を吸われて、大倶利伽羅は小さく呻く。
熱い吐息と下着が濡れて仲が蒸れる感覚、直接ふれるわけではないもどかしいそれは、しかし確実に大倶利伽羅を追いつめていった。
ペニスが芯を持ち固くなって、股間はすぐに窮屈になる。

「も……いた、い……」
「出してあげるよ」

光忠が顔を離し、指先を下着のウエストの部分へ差し込んだ。
一気に下へ引っ張られ、ぶるん、と大倶利伽羅の一物がさらされる。
くすんだ桃色に、光忠は酷く興奮した様子で荒い息を吐いた。

「可愛いね、大倶利伽羅のここは……何度みても」
「……うそ、つけ」
「可愛いよ、震えるペニスも、その上の毛も……その下のたまも」

言葉と指で心と身体を犯され、大倶利伽羅の喉から甘い声が漏れていく。
大倶利伽羅は、堪らないといった様子で頭を振った。

「……光忠、焦ら……すな……ァ」
「焦らしてるつもりは、ないんだけどねえ」
「……もう、いい。お前には期待しない」

大倶利伽羅はついに耐え切れなくなった。
光忠のケーキのクリームでべたついた指の上から、自分のそれを重ねる。
若い先走りが零れるその上から、ぐっ、ぐっ、と強くしごいた。

「力技だね」
「……すぐいきたいんだ」
「もっと熟れさせてから食べたほうがおいしいし、食べられるほうも気持ちよいと思うんだけどね。まあ仕方ないかな」
「……っ!」

光忠の指の動きが弄ぶのをやめ、大倶利伽羅を達させるためだけのものになる。
裏筋を親指で辿るようにして下から上へ強く絞り込まれ、数度で大倶利伽羅は精液を吐き出した。
白く濁った液体が、大倶利伽羅の褐色の腹を濡らす。
大倶利伽羅の顔の左に垂れた髪を掬い上げ、梳いて、光忠は目を細めた。

「今はこれで許してあげるよ。これでも十分気持ち良いみたいだからね」

縞模様のタイを完全に解いて光忠がシャツのボタンを外すのを、大倶利伽羅はくたりとソファに背を預けながら見つめる。
露わになった彼の胸板に、大倶利伽羅はごくりと喉を上下させた。
「夜はこれからだけど、付き合ってくれるよね、大倶利伽羅」
「……望むところだ。俺は……あんたが部屋に入ってきたとき、から……」
「したかったのかい?」
「……悪いか」
「まったく。だって、僕もそうだったからね」

ばっ、と光忠がシャツを脱ぎ捨てる。
逞しい胸板と腹筋をもつ彼に、大倶利伽羅の視界が支配された。
この身体に今から抱かれるのだ。
そう思うと、大倶利伽羅の性器に再び熱がともる。
ぴく、と大倶利伽羅のそれが跳ねたのを見て、光忠は綺麗な隻眼を閉じて嗤った。

「寝室に行こうか、倶利伽羅」